Papersong Bubbles

NARUT0のカカイル創作ブログ。

To be or not to be…

単発のSSですが、ちょっと長くなってしまったので畳みますー。霊ものですが怖い話ではないです。怖いの私が苦手じゃ。。。

続きは↓からどうぞー♥

 To be or not to be…

 

最初に見えたのが何だったのかは分からない。物心ついた時にはそれは常に身近にあった気がする。

 

「昼のさ、この時間って退屈だよなぁ」
「ほとんどの忍びは任務中だから仕方ねぇっすよ。まぁ、クッソ暇なのにずっと座ってんのも案外しんどいもんすね」
「そう言うなって。夕方になったら忙しくなるんだからさ」
「イルカだってさっきからずっとアクビしてんじゃんか。俺は知っているぜい」
「それ、いばることじゃないからな」

ニヤッとした顔で同僚に言われた通りアクビが出るこの時間帯。担当するアカデミーの子供たちのテストの採点や明日以降の依頼書の確認など細かな作業がないと、暖かい陽気に負けてしまいそうだ。
意識を若干ポヤポヤさせたまま、今週末の依頼書の確認をしているイルカの右肩からすっと影がさした。『トン、トン』指先は小さく依頼書の任務地名を叩いている。何とか意識を覚醒させて依頼書のページをめくると、任務地の詳細地図の一部が抜けていた。
木ノ葉の小さな出版社が里が誇る写輪眼から名前を取ったという地図『全輪』は細かい場所を見るのには便利だが、任務地がページをまたがるケースが多々ある。時折任務帰りの忍びから寄せられる苦情の原因になっていた。

「ちょっと書庫に行ってくるわ」
「サボリかよ、ズリーぞイルカ」
「お前じゃねえんだから、クヌギ先輩こいつのこと見張っててくださいね」
「おーう」

 

「イルカが出てる日はマジ楽っすね」
「溜まってた仕事が見事に消えるもんな、あの処理能力は上忍レベルだって」
「上忍だってあんな仕事はできねぇっすよ」
「正確だし見落としないもんなぁ、ホント不思議だわ」
内勤忍達の間でイルカは生ける伝説になっていた。「速読の達人」だと言う者がいれば、ある者は「脳の情報処理速度」だと言い、また別の者は「アカデミーで鍛えられたテスト回答の丸付け能力」だと言う話だ。アカデミー教員はというと「後ろに目が付いてるみたい」だと言い、あんな教師と一緒の扱いで内勤業務に期待されても困るのだという。

イルカが1年に数回趣味の湯治に出掛けただけで受付業務は毎回恐慌に陥るというのだから恐ろしい。当のイルカに聞いても、ほほんとした顔を少し困らせながら「何でですかね」なんて返事が返ってくるだけだった。

 

「……誰もいないよな?」
書庫の扉を開けながら中の気配を探るのが最近の癖になってしまった。里の中で気配を絶つ必要性は普通の忍びにはないのだか、あの人は違う。埃っぽい室内の無人を確認してから、イルカは斜め上から自分に向けられる笑顔に挨拶をした。
「さっきはどうもありがとうございました」
返事はない。いや、したくても出来ないのでひたすらニコニコしているのだ、イルカの周りに集まる幽霊たちは。


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まだオシメの取れない赤ん坊の頃、誰もいない庭先に顔を向けてはキャッキャと笑っていたというイルカ。
穏やかというより、のんびりとしたうみの家の若夫婦は、「手のかからない子で助かる」とこれまた暢気な感想を持ってイルカを育てていった。稀に空腹やオシメの不快感でも熱など体調でもなく、ギャンギャンと泣いてグズるイルカには手を焼くこともあったが、何とかなだめようとミルクを用意するほんの数分の間に不思議と泣き止むフシギな子だった。

奇妙に感じることと言えば、イルカがハイハイをし始めて行動範囲が広がった頃のこと。机や物にぶつかりそうになるたびにイルカ自身や頭上に降ってくる物が妙な動きで衝突を避けているように見えた。

「優秀な忍びはほんの小さい頃から、超能力のようにチャクラを使って自分の身を守るらしいよ」嘘か本当か怪しい噂は、まるでおばあちゃんの知恵袋のように木ノ葉の里に浸透しており、楽観的なうみの夫妻は息子が「火影になる逸材かも!」「トンビが鷹を!」と親バカ丸出しでイルカを育てていった。
すくすくと育つ我が子をうみの夫妻は可愛がったが、言葉を覚えたイルカは時々口にするのは奇妙なこと。「じいじ、ごはん、いらにゃの?」「にいちゃ、あしょぶ?」若い夫婦とイルカだけの小さな家で、何もない空間に話しかけるイルカを不思議には思っていた。

 

「おじちゃ、どこ?」
ある日、買い物からの帰り道でにイルカがふと放った一言。誰のことかと聞く両親にイルカは初代火影の顔岩を小さな指で示した。
「初代様はえらい忍者だよ。じいちゃん火影様の前の前の火影様だよ」
「あえりゅ?」
「はは、亡くなってるから今はもう会えないんだよ」
「いりゅかのとこ、くりゅもん」
「家に初代様の絵でもあったかしらね」
「おじちゃ、はっぱで、あしょぶもんっ」
何を思い出したのかウワーンと大声で泣き出したイルカを前に、「葉っぱで遊ぶ」という言葉を聞いた両親は動けなくなった。言葉を発し始めたばかりの我が子がなぜ初代様が木遁使いだと知っているのか、今までにも不思議に思ってきたことが段々と鮮明になり、背筋が凍った夫妻は自宅までの道を取って返して火影屋敷に向かった。

 

海野夫妻から話を聞いた三代目はイルカと2人で少し話をした後、すぐにイノイチを呼び寄せた。火影屋敷の広い応接間に寝かせられた息子を見て不安そうにする海野夫妻を横目に、イルカの精神へ入り込んだイノイチが目を閉じてから約10分。
「っっ!!はぁ、はぁ、たっ大変です。イルカくんは、幽霊が見えるようです!!」
飛び跳ねるように覚醒したイノイチが放った言葉にその場にいた全員が「アホか」「まさか」「そんなバカな」と驚き叫んだ。

 

「嘘のようなことですが、イルカくんの意識を通じて…ここにいらっしゃる初代様とお話ししました…」

 

ガクガクと冷や汗をかきながら話をつづけたイノイチの姿に、今度こそ完璧にその場が凍り付いた。イノイチ経由の初代火影の話をまとめると、こうだ。産まれてからすぐにその魂の純粋さに惹かれて多くの霊がイルカの周りに集まっていた。初代や二代目も時折イルカの元にやってきては子守の真似事をし、また霊感を利用して操ろうとする悪霊を払って来たという。
まれにおぼろげな霊感のある人間はいるがイルカははっきりと認識しており、多くの優しい霊たちが守ってはいるがこの子が育ったとき悪霊に襲われないか心配だというものだった。

 

その後、霊に詳しいという妙木山のガマ婆さまも呼び寄せ、ごく一部の里上層部と火影、海野夫妻、そしてイルカとイノイチを介して発言する初代と二代目は何度も話し合いを重ねた。現にこうして死んだはずの前火影とのパイプ役になっていることから霊感の利点を重要視する古参の上役、イルカの行く末を案じる若夫妻、起こりうる里の混乱を憂う火影。

イルカが3歳になった5月末日、ガマ婆さまの除霊とイノイチや情報部の記憶操作を複合させて「善霊は見えるが、近親者の霊や悪霊は気配を感じるだけで見えない」術式を脳内に残した。
そして、その時交わされた約束通り、15歳に達した時イルカは2週間の休みをもらって妙木山へ行き、霊の干渉を遮断するバリアのような術をプライバシーのために体得したのだった。


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「ねぇ、またひとり言いってんの?」
最初に確認しただけで、すっかり気を抜いて目の前の霊と会話をしてしまった。背後から顔をぬっと出した銀髪の上忍はイルカにとっては幽霊の登場よりも心臓に悪い。

「あ、はは、寝ぼけちまったみたいで。すいません」
「いや、別に俺は何の被害にもあってないけどね」
「…えっと…」
「ねぇ、あんた前も1人でニコニコひとり言してたじゃない。そんなんで仕事大丈夫なの?」
「すいません、仕事は…ちゃんとしてるんですけど」
「いや、そーゆーこったなくてね。もっと休んだら?って言ってんの」
ガシガシと頭をかきながら言う上忍の右目しか見えない顔が怒ってるのか呆れてるのか何なのか分からなくて逃げ出したくなるのを必死で耐える。なんでこの上忍がいつも唐突にこの部屋に現れるのかは謎だが、こう何度も目撃されるなんて気を引き締めないと。


「休憩中のところ、邪魔してすいませんでしたっ!」
「っ」何か言いかけた上忍を無視するように、集めた書類を手に書庫の扉を開けると全速力で逃げ出した。イルカの隣を漂う霊が申し訳なさそうな顔でイルカに向かって頭を下げているのが目に入って、廊下の角を曲がるとイルカは小声で話しかけた。
「はたけのおじちゃん、俺またヘマしちゃった…」
憧れでありちょっと怖くもある上忍と同じ銀色の髪を揺らしながら、隣にたたずむ幽霊は目じりに皺を寄せてイルカを慰めてくれる。幼い頃、両親と親交のあったはたけのおじちゃん。
カカシ上忍と親子なのにこんなに違うなんて、と当てのない苛立ちと皺くちゃになってしまった地図資料を抱えてイルカは座り込んだ。

 

 

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霊感中忍イルカちゃんでした。以前書いた絵のSSです(絵はこっち
続くかな。どーだろ。。。もっとサクモパパ対カカシさんなラブコメに持っていきたいので、時間を見つけて続きを書くかもです。