Papersong Bubbles

NARUT0のカカイル創作ブログ。

バレエカカシ3(SS)

今回はそれほど暗くないと思います(当社比)。
相変わらずカカシさんは陰鬱なんだけど、状況は前2話に比べてだいぶマシ
イルカさんも出て来るっス。
毎度のことですが、注意書きに問題なければ以下の折り畳みの本文をどうぞ。
*現代パロ(バレエダンサーカカシ×剣道大学生イルカ)
*シリアスというか、割と暗い(カカシパパの自殺とか)
*最後はハピエンに持ってきますが、現段階は暗いです。

 

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soffocato(息をつめたように)

ロンドンから13時間の空の旅。これまでも長距離の便に乗ったことはあるが、移住目的でヨーロッパ以外を目的地をするのは今回が初めてだ。
癪ではあるけれど、ロンドンで世話になったアスマという日本人を伝手に、彼の恋人がカカシに新しい環境を用意してくれた。2年間という契約でとある学校でのバレエ
指導を担当するのだという。

バレエから離れるためにヨーロッパを出るのにそれでもバレエとは完全に隔離できないのかと不貞腐れるカカシに、アスマは「いきなり完全に忘れるっつったって上手く行かねぇだろうが」と苦笑して言った。


皮肉なことに、ロンドンを発った飛行機は、父を亡くしたパリ、故郷のロシア上空を飛んで日本への針路をとっている。
長時間の退屈を紛らわす娯楽とはいえ、派手派手しい映画を見る気にはならずうつらうつらとした頭の中で「ここで墜落したら、父さんに会えるだろうか」そんな馬鹿な空想をしながら過ごした。
Ladies and gentlemen, we are landing at Narita, New Tokyo
International Airport shortly……
耳になじんだ機内アナウンスに「TOKYO」という言葉が入る。
幼いあの日に父さんと約束をした日本という国に間もなく降り立つというのに感慨も実感もなく、腹の底が落ち着かない具合の悪さを感じていた。

 

 

日本に着いてから思いのほか容易に日々が過ぎていったのは、この国がロンドンと同じように、いやそれ以上に近代的だったことと、密かに勉強してきた言語に不自由を感じることが無いためだが、やはりアスマと彼の恋人である紅に感謝しなければならない。
既に住まいも手配されており、先に送った荷物を預かっていてくれた紅が彼女の同僚のガイという暑苦しい男を引き連れてやってきた。
「まぁ、うちの学園の借り上げてる物件で、家財道具は揃ってるんだけどね。アンタがやたら本とか重いものを詰めて送ってくるからガイの手を借りたのよ」
「そういうことだ!困った時はお互い様と言うしナ☆」
「ガイは小等部で体育を担当してるから、アンタも会う機会が多いだろうし私以外に知り合いがいた方が良いかと思って、迷惑だったかしら?」
「別に良いケド」
「まぁ、バレエと体操部の顧問アシスタントって程度で仕事自体は忙しくないのよ。午後に2時間程度のことだから、あとは好きに過ごしてくれて構わないわ」
「…当分は適当に観光でもさせてもらうさ」
「ふふ、それも良いと思うわ」


アスマから「金は持ってるだろうから必死に働く必要はないだろうが、ロンドンとは違った環境が少しでも気分転換になれば」という話を聞いている紅は、眠そうな目をしたカカシを複雑な気持ちで日本に迎え入れた。
この日本滞在がカカシの人生にどのような影響を与えるのか分からない。
輝かしいバレエ人生と完全に決別するのか、または復帰するのか。どちらにしても不幸を一身に背負ったような顔が少しでも変われば良いと、出来れば恋でもして劇的ビフォアアフターしないかしらと、暢気に母親のようなことを思う紅だった。 


4月を来週に控えた月曜日の夕方、その日はカカシと学園の責任者の初めての顔合わせとなった。小等部の学長は豪胆な女性で、紅の紹介のもと訪ねたカカシを快く受け入れてくれた。
紅も学長の綱手という女性もカカシの経歴などには一切触れず「よろしく頼むよ」と笑顔で一言寄越しただけだった。
東京も街を歩けば、珍しい銀髪とカカシの整った顔立ちに振り替える人は多いがヨーロッパで感じる、自分たちと同じか異質かと見分けて、時には蔑むような一方では媚びるような目とは違う。ただ単に外人の、銀髪の物珍しさのようだ。
それすら気分のささくれだった時には煩わしいが、紅や綱手のようなさっぱりとした性格の女性と一緒の職場というのは悪くない。

 

顔合わせがあっさりと終わり、仕事の残る紅たちと別れてからは学園内を散歩してから帰宅することにした。小等部から大学部まで何棟もの建物を抱えるこの学園の敷地は広く、所々に緑があふれ木陰があり、ゆっくり歩くにはちょうど良い。

そんな風に思いながらふと夕日を眺めると近くに体育館があった。
人の少ないと聞いている春休みなのに、ドアが開いていて中に人がいるようだ。
清掃スタッフだろうか?この建物が小等部の体育館かは定かではないがふと気になったカカシは中を見てみようと体育館へ足を向けた。

 


この時間。
誰もいない夕暮れ時に一人になるのがイルカは好きだ。いや、好きというのは少し違うかもしれない。落ち着くって言うのかな。中学生になって出会った剣道は大学生になった今でも趣味程度ではあるが続けている。土曜日は都合が着けば小等部の剣道をボランティアで指導しているイルカは今年で大学2年になった。高校の時に両親を事故で無くしてから、一時は親戚の家に厄介になったものの、大学入学が決まったと同時に自立を決めた。
親戚はイルカを家族のように迎えて優しく接してくれたものの、両親以外を家族として見るのは辛く、そんな自分を申し訳なく思う気持ちが膨らみ続けての結論だった。


イルカの家は小さなアパートの小さな一室で、もちろん一人。
教師を目指して教育学部に進んだイルカは、剣道で一緒になる子供たちと過ごす時間が好きだったが、そのあと家に帰るのが小さな子供のように辛かった。
この体育館は校内のはずれにあった古いもので、人もあまり来ない。
楽しさに浮き上がった心を静めて、あの寂しい家に帰る前に少しだけ余裕が欲しいんだ。
白い剣道着を身に纏ったイルカは膝を合わせて精神統一する。目を閉じると気の陰から漏れる夕陽がオレンジ色に瞼の裏を照らしてくれる。少し温かい気持ちになって立ち上がると、裸足に体育館の床の冷たさが気持ちよく沁みた。
まっすぐ、竹刀を振り上げて、まっすぐ、振り落して、止める。
独特の足のリズムと腕から竹刀に伝わる動きに集中しながら、何度も繰り返す。

 

 

体育館にいたのは1人の青年だった。
あれは日本の着物なのか、真っ白の上下を身に着けた青年は最初ただ座っているだけだった。何が始まるのかと見ていれば、おもむろに立ち上がり剣を両手に素振りをしている。
動いて、止まる。動いて、止める。
その単純な繰り返しだというのに不思議とカカシは青年から目を離せなかった。裸足の足が立てる「キュ、トッ」という音が耳に慣れたバレエの音と酷似していたからかもしれないし、夕陽の中に白く浮かび上がる姿が幻想的だったからかもしれない。

どのくらい立ち尽くしてしまったのか、彼を見続ける以外の感覚が遮断されて永遠にも感じたほどだが、キンコーンカンコーンと緊張感のないチャイムに驚き周りと見ると、少し先に立つ街灯の下の時計が5時を示していた。
視線を戻すと青年の耳にも届いたようで、一度綺麗に座ってから腰を畳んでお辞儀をし体育館の奥に消えていった。
彼の姿が見えなくなってから、ふと小さい頃に見た日本のアニメを思い出した。
あの時も夢中で見入ったような気がする。
また彼を見かけることができるだろうか?明日もこの場所にいるだろうか?
カカシの心の中を春の風のように掻き乱しながら、夕陽のように照らした光景。
この日、カカシの新しい人生が目を覚ました。

 

 

つづくー。やっとイルカさん出せたよ。ふへー。。。長かった。
前回のアスマさんを格好良く!と同じく今回は紅さんを格好良く!
あの2人は完璧大人で、カカシやイルカはちょっと不完全な一面を持ってます。
どちらかが一方的にというより、2人でやっと1人前ぐらいの支えあいが書きたいなぁってのが、今回の課題。上手く行くかな。超絶未定だよっ!