Papersong Bubbles

NARUT0のカカイル創作ブログ。

バレエカカシ2(SS)

バレエカカシの2話目です。この落ち込んだカカっさんがイルカちゃんに
出会うまでの妄想が一番ボリュームを占めていて、出会った後にどうやって
くっつけるか、まだ未定という大博打。大丈夫かしらん。。。
2話目ですが、イルカちゃんたぶん出てこない。。。あ、アスマさん登場よ!
進展は気長に待って頂けるとありがたいです。

本文は畳みます。

 

 

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tempestoso(嵐のように)

 

ユーロスターで深夜近くに北駅につき、タクシーを拾ってパリ市内を走る車内、窓の外をぼんやりと眺めると漆黒の空にチラチラと白い物が混じり始めた。
とりあえず今夜は何も考えず、宿を取ったサンジェルマンのホテルで泥のように眠りたい。パスポートと財布だけを持って着の身着のままで来てしまったパリでは、無意識にいつもの宿に連絡してしまった。
近くの美味しいレストランと、ホテルにある小さなジャルダンと古めかしい建物を殊更好んで、昔はよく泊まった父さん。街灯の明かりが水面に映るセーヌ川が車窓から見え始める頃になって、思い出の多さに辟易としたカカシはビジネスホテルでも取るべきだったと一人溜息をついた。

 

パリでのことは詳しくは覚えていない。
自分の車で事故死したとのことで現場を見せてもらったものの、運転の得意な父がカーブとは言え何の障害もない道で事故を起こすとは俄かには信じ難かった。
警察によると微量のアルコールが遺体から検出されたとのことで、今回は運転ミスによる事故死と判断したという。
警察での説明を父の所属する劇団の秘書と共に聞き、残しされたパリの住処に向かった。その間、カカシにとって苦痛だったのは大きなバレエ団に関わってきた父さんの死を下世話に騒ぎ立てるマスメディアの目だった。「何故死んだのか」「本当に事故なのか」そんな事は自分にだって分からないと言うのに。
知っているのなら誰でもいいから教えて欲しい。

 

その手紙を見つけたのは本の偶然だった。
簡素な父らしい書斎の引き出しにあったそれは、宛名も差出人の名前もなく封筒は中身の便箋ごと一度丸められたようにガサガサとしている。手に取った瞬間言い様のない不安をカカシに与えたそれを、彼は震える手で開いた。

 

*********

突然のお手紙をお許し下さい。
これから死に行く者の残す最後の懺悔を神は許して下さることと願います。
あれから二十数年の月日が経ちました。あなたはあの頃の才能をさらに伸ばし活躍されている。何度も思いを断とうとしたものの、いつもあなたのことを知ろうと気がつけば海外の記事を読み漁った日々でした。最後にあなたに会ったあの時あの子を壊したあなたに二度とお目にかかることは無い、そう言ったのは他でもない私自身だというのに。
確かにあの頃はあの子を利用し壊したのだと、あなたを親の仇か悪魔のように憎み私は一方的にあなたを攻めました。何度殺したいと思ったことか、絶望の果てに自分こそ死んでしまいたいと思ったことでしょう。自分の気持ちばかりを優先して生まれたばかりの子を押し付けて消えた私たちのことをあなたは咎めるでもなく、彼を慈しんで育ててくださった。彼が輝かしい未来を歩く姿を見るたびにあなたの愛情の深さを、そしてあなたに惹かれていた自分を隠し逃げてはあなたを罵った自分の罪深さを思い知りました。
そう、憧れなどではなく深く深く、愛していたのに。
あの子を先日看取ったばかりですが、今は自分が病床で偽り続けの一生と別れるお迎えを待っています。あなたによく言われた煙草でしょう。今では楽しかった頃を想うために吸っていたような気がします。

*********

 

不思議な手紙だった。
紺色のインクで右肩上がりの几帳面な英文で綴られたそれは所々滲んでいて、父はおろか誰一人としてはっきりと名前が示されていなかったが、父の死に影を落としたものであろうと本能が訴えている。
「二十数年」という言葉、もしや自分の出生にも関わることなのかと、戦慄した。
幼い頃の約束から何年も経った頃になって、自分の母は日本人なのだと知ったが、これは日本からの手紙なのだろうか。
答えを知りたい小さな好奇心と底知れぬ恐怖心に、金縛りになった心が静かに
悲鳴を上げている。
1週間を淡々と過ごした中で見つけた手紙を片手に、カカシはパリを後にした。


ロンドン北部にある自宅に戻ったカカシはバレエ団に酷く簡単な手紙で退団の意向を提出したが、親を亡くしたショックであろうとオーナーが保留しているのだそうだ。こうして自宅を引き払う準備をしているのに、復帰を望まれるなんて冗談じゃない。
もうバレエを続ける情熱など無いのに。
いや、情熱というほどのものを今まで自分が持っていたのかすら疑問に思う。とは言えバレエとともに生きてきた自分が今更どう別の道を生きていくのか……全く見当が付かないでいる。

 

「カカシ、邪魔するぞ」
「……」
来客の珍しい自室に入ってきたのはアスマという日本人でスポーツ医学をロンドンで学んでいる男だ。バレエ団員の体調管理についての研修で知り合ったアスマは、寡黙で余計なことは言わないが割と親切な性格らしくバレエ団を一方的に去った後も何かにつけ訪ねてくる。
バレエ団のメンバーは競争内に身を置くためかお互い腹を探り合い、国籍で差別するものも多かった。ヨーロッパでも珍しい銀髪、そして混血、この世界で名前を知らぬ者などいない父の栄光と生き写しの容姿、常に好奇や妬み、僻み、時に嫌悪の視線を感じながら過ごしてきたカカシにとって部外者のアスマは付き合うのに気が楽だ。
しかし、あの手紙の存在が日に日に大きくなる今は、会いたくない存在だった。

 

「何か用?」
「まぁ用と言えば用だな。お前がまだクサクサしてんのか気になってよ」
「別にいいじゃない。アンタには関係ないんだから」
「身も蓋もねぇ言い方しやがって。まぁいい。今から言うのは俺の勝手な意見だから嫌なら聞き流して幾らでもクサクサしやがれ」
「……」
「お前もうロイヤルバレエに戻る気ねぇんだろ、それならそれで良い。ただ、次に行く先が決まってねぇなら日本に行ってこい」
「は?ふざけてんの?行く訳ないでショ」
「手紙のことはこの前聞いたからもう言うな。お前の出生なんぞ興味ない。だがな、オヤジさんと約束してた国に行くのも悪くねぇんじゃねえか?そのために日本語そこまで勉強したんだろ」
「……」
「だんまりかよ、腰抜けが」
「うるさいよ」
「ここでクサクサしても何にもなんねぇっての、お前が一番分かってんだろうが」
「アンタ優しくないよね」
「男に優しくする趣味なんぞもってねぇよ、気持ち悪りぃな」
「ヒゲのくせに」
「知るか。俺が優しくすんのは1人だけなんだよ。恋人が日本にいんの知ってんだ?
紅だ、去年お前に一度会わせただろうが」
「それが?」
「あいつの学校で体操とかバレエの指導者を探してる。プロのお前だったら先方は喜んで受け入れるそうだ。学校とはいえガキ相手のクラブで難しいことは何もねぇ」
「ガキは好きじゃないんだけど」
「そりゃ、お前もガキだからだろうよ」
「……」
「まぁ気が向いたら連絡しろ」
「…そんな日は一生来ないと思うけど」
「その時はそうなんだろ、俺はもう何も言わんさ」

 

一方的に言うだけ言ってアスマはさっさと帰っていった。
要らんところでこんなにお節介を焼いて来るやつだったなんて少し意外だったし、正直に言えば気も立った。本当のところは彼の言うことが最もだと分かっているが、未知の世界がこれほど怖いものとは。
自分のアイデンティティを知るこは今の自分を根底から覆すようなことかもしれない。

悶々と悩んだ挙句、食が細くなり睡眠不足に悩まされ体調を崩しながら3月の数週間を過ごした。気温は高くなり、日も長くなっているはずだが、この国は相変わらずどんよりとした空のもと、カカシを飲み込もうとしている。
空になった部屋のどこを見つめる訳でもなく、ただ眺めていたカカシは手元に残ったわずかな荷物を手にした。ロンドン北部からは1時間ほどかかるが最初にこの国に来た時と同じように1時間ほど、地下鉄に揺られた。
まだ手足の凍えるような冷たさは消えてはくれず、この国は今日という最後の日までどんよりと暗い。
「父さん」
小さく呟いたカカシは寒さに震える手でヒースロー空港の扉を押し開けた。

 

 

 

次こそイルカさん出てくると思う。この回はアスマさんを格好良く!
ってことだけに情熱を注いだっす。あとはカカシパパちゃんね。
もちろんパパちゃんはサクモさんで、謎の死(ほぼ自殺路線)です。
途中に挟んだ手紙の件とか、妄想甚だしいので特に深入りはしません。
そんな感じの辛い恋愛したんだなぁ程度で読み進めて頂ければ。。。