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NARUT0のカカイル創作ブログ。

貢ぎものー♥「はたけ歯科」へようこそ

歯医者帰りの繭しゃまへ。拍手で話した「はたけ歯科」を押し付けです。f:id:iris-ichka:20150712011115j:plain

無事に終わって本当に良かったね!

歯医者設定は、ヘタレ魔王のカカっさんが素でちょっとSになれる特典付き。ちょっとツボだったのでSS書きましたが、また尻切れ気味です。カカシ視点が書きたかったかもなぁ。絵もSSも微妙だけど繭しゃまへ捧げます。イルカ先生描けなくてごめんね!真顔の隊長で許してちょ!

続くか微妙ですがとりあえず以下、現代パロの歯医者SSに続きますー。

 

「それ、親不知かもしれないねぇ」

そう言われてから2カ月経った今頃になって、ようやく歯医者に行く決心をした。
勤務する小学校の新学期が始まり日々に忙殺されて足が遠のいていたけれど、実際は仕事の忙しさ半分、歯医者への漠然とした恐怖半分でやり過ごしてしまった。近頃は梅雨空の影響か、段々と痛みを感じるようになってきた奥歯。痛みは意識すればするほど気になって、遂に今日この真っ白な待合室に座って置き場の無い身をソワソワさせている。

金魚と言うにはハイカラな色とりどりの魚が泳ぐデカい水槽の下にならんだ、本棚の中から適当な文芸雑誌を選んでページをめくる。平静を装ってるけど、短編小説の内容なんて全く頭に入らない。だって、仕方がないじゃないか、こうやって歯医者に来るのは10年来のことなんだから。『大丈夫、大丈夫』、あのはたけ先生が見て下さるんだからと、小学校の歯科検診でお世話になる穏やかな顔を思い出した。

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俺の勤務する木ノ葉小学校は健康管理に熱心な綱手校長のもと、保健医のシズネ先生が管理する定期的な健康診断の他に、保健体育のガイ先生が元凄腕シェフだという家庭科のイビキ先生と一緒に食育を実施したり、学区内の歯科医の協力を得て歯科検診を春・秋・冬と年に3回実施していた。担当してくださる歯科医は3件あって、南区にある一番大きな猿飛歯科と東側の百地クリニック、そして学校に一番近いはたけ歯科。

猿飛歯科の院長先生は老年ながら流石ベテランなだけあって子供には実の祖父のように優しく、校長とも親しい方だ。

百地クリニックは生意気盛りなガキンちょ君たちが涙を引っ込めビビりまくる強面の院長と美人の助手1人だけで運営している。少し風変わりな個人院で週に4日しか営業していないものの、助手さんに熱狂的なファンがいるということで霧里町では有名な歯科医院らしい。

そして学校から歩いて5分の所にあるはたけ歯科のサクモ先生は、もう50過ぎらしいが、その年齢を感じさせない笑顔とスタイルの良さ、そんでもって紳士的な振る舞いに女性教員から圧倒的な人気を誇っていた。

 

学校の北側にあるはたけ歯科は俺の家からも近く、コノハスーパーで買い物をしているサクモ先生を偶に見かけては独り者の男同士、簡単な料理や世間話に花を咲かせた。
「このせんべぇ、案外美味しいんだよ。イルカ君、知ってる?」
イルカ君。いかにも堅そうな醤油せんべぇのお徳用袋を持つサクモ先生からの呼びかけは最初が海野先生で次がイルカ先生だった。歯医者さんの院長先生で俺よりもずっと年上の方に先生なんて丁寧に呼ばれるのがこそばゆくて、子供たちの呼び名の『イルカ先生』から先生の助手さん達と同じ君付けに格下げしてもらった。
「なんか最近奥歯が痛いような気がして、せんべぇ食べにくくて」
「え?虫歯なの?大丈夫?うちで見ようか?」
「うーん、俺今まで虫歯したことないんですけどね」
「イルカ君、先生なだけあって歯磨き上手だし、歯並びも綺麗だもんね。どれ、ちょっと見せて」
スーパーのお菓子と酒のつまみの棚の間で大口開けてサクモ先生に見てもらう。強引ではないけど、優しく「あーんして」なんて言われてパッカリ口を開ける俺ははたから見てかなりアホっぽい気がする。奥歯の後ろの歯茎を上から横から押さえただけでサクモさんは指を俺の口から抜いてくれた。
「ちゃんとレントゲン撮ってみないと何とも言えないけど、親不知かもねぇ」
「え?それって思春期ぐらいに生えるもんじゃないんですか?俺もう24なんですけど」
「だいたいは20歳前後に生えてくるんだよ。歯茎から顔を出さないことだってあるしね。奥に無理やり出てくるから曲がって生えてきたり、親不知が他の歯を圧迫して歯並びを悪くすることもあるんだよ」
「へぇ…」
「別に悪いもんじゃないんだけど、現に他の歯にあたって歯痛がするようだから、抜いちゃってもいいかもねぇ」
抜いちゃっても…ってそんな笑顔で言われても。サクモ先生に悪気がないのはよく分かってるけど、小さい頃行った歯医者の「ギュイィィィン」と音を響かせる処置に、ちょっとチビりそうになった淡い思い出を持つ俺としてはあんまり嬉しくない。

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「はぁ」とか「えぇ」とかなんとか言ってその場は別れたものの、歯痛を根性で耐えた2か月を無に帰して、やっとの思いではたけ歯科を尋ねた。受付に保険証を出すと受け取ってくれたのはネコみたいな眼をした男性で、顔見知りのサクモ先生や検診に一緒に来てくれるアスマ先生や助手の紅さんじゃないことを残念に思う。

「今日はどうされました?」
「あ、あの、奥歯が痛くてですね。俺サクモ先生と知り合いなんですが親不知じゃないかって言われて」
「そうですか、すみませんがしばらくお掛けになってお待ちください」
「はぁ」

知らない受付の人にビビってサクモ先生の名前を出してみたものの、あっさりそう言われて拍子抜けしてしまう。手持ち無沙汰に文芸雑誌を開いていると、ちょうど奥の処置室から顔を出したサクモ先生と目があった。
「あ!イルカ君、調子はどう?」
「それが奥歯がやっぱり痛くって」
「そっかそっか~、俺が見れると良いんだけど今ちょっと立て込んでてゴメンね」
「紅さんはいないんですか?」
「あー紅ちゃんは、近いうちにアスマ君と結婚するんだよ。だからウチでの研修は終えて2人で猿飛さんの所を継ぐように返しちゃった。あちらさんはそろそろ隠居したいらしいんだよ。うちはうちで、息子が入れ違いで帰ってきてね、そんなこんなバタバタしててゴメンね」
「あーそうなんですか」
ということはさっきのネコ目の人と言い、サクモさん以外全員知らない人なのか…ますます緊張してきたぞ。受付の人に指示を出してすぐに顔を引っ込めたサクモさんがいなくなると、やっぱり普段で気が重くなる。黙って座って雑誌に目をやったり水槽や受付のTVを眺めていたら、奥の処置室から大きな声が飛び出してきた。

「ぎゃぁぁぁ!!そんな武器もってるなんて反則だってばよ!!!」
「こら!!ナルトしっかり座んなさい!!動いたらもっと危ないんだよ!!」
「もっと危ないとかゴメンだってばよ!!うわぁぁぁん」
「サクモさん、俺が腕押さえますんでサクッとやっちゃってください」
「父ちゃんのバカ!!うんこ!!カチク!!」
「お医者さんでバカはともかくうんこはないでしょ!!うんこは!!それを言うなら鬼畜だし!もー鬼畜でも家畜でも何でもいいからさっさと座んなさい!!」
「うぎゃぁぁぁぁ」

どこかで聞いた声だと思ったら、俺の担当する2年3組クラスのお調子者のナルトだった。気になるものの、学校じゃないから勝手に処置室に入るわけにもいかないし、ナルトの叫び声が自分の幼いことを彷彿とさせて、益々胃が重くなる。

「…さん、うみのさん」
「は、はい」
「うみのイルカさんですね?早速ですがレントゲンを撮りますよ」
さっきの受付の人とは違うまた別の人に連れられて、どっかから借りられた猫状態でレントゲン室に向かった。顎の位置を合わせたりと普通の胸部のレントゲンとは違うなんて思っていたら、バッバッと音がしてあっという間に終わった。
俺がレントゲンを撮ってる間に処置室での喧騒も収まったようで、フラフラと歩くナルトがちょうど出合い頭にぶつかってきた。

「あっー!イルカ先生!!…って先生…ここにいるのにさっき俺のこと助けてくん無かったってばよ、ヒデー!!ハクジョーモノ!!うんこ!!もー学校で口きいてやんねーもんね!!」
「ナルトまだバカ言ってんの?イルカ先生に謝んなさい!じゃないと約束のカゲレンジャーは買わないからね!」
「そっそんな!!イルカ先生ごめんなさいっ明日からまた口きいてあげるってばよ」
「そんな言い方ないでしょ?もー帰るよ!クシナがスーパーで待ってるんだから。サクモさん、どうもお騒がせしてすみませんでした。イルカ先生、ナルトが毎日ご迷惑かけているようですが家ではイルカ先生イルカ先生とうるさいんですよ。学校で楽しく過ごしているようで大変嬉しいです。また参観日にお目にかかりましょう」
「ではまた」と顔を下げて後にしたナルトの父親の波風さんは確か隣の県の大学病院で外科医をしていたと思う。忙しいはずなのに休日に息子の手を取って歯医者に付き添ってくれるなんて、若いのに優しいお父さんなんだなぁ。小さい男の子特有の『うんこ』とかしょうもない言葉を平気で言う元気いっぱいのナルト。まだ小さい手を父親と嬉しそうに繋いで、2人並ぶ後姿が微笑ましい。


「うみのさん、すみませんがこちらの診察台に上がっていただけますか?」
「あ、ボーっとしててスイマセン」
「いえいえ、うみのさんは学校の先生なんですか?」
「え?」
「ホラ、さっきの小さい子」
「あ、そうです。彼のクラスの担任でして。俺この近くの木ノ葉小学校で教鞭をとってます」
「へぇあそこ俺の母校なんですよ。♪夕陽の燃ゆる木ノ葉の丘に~デショ?」
そう話しかけられてから、改めて隣に座った担当医の先生の顔を見上げてみた。歯科医のマスクをしていて鼻から下は見えないし、白い処置室の蛍光灯が逆光になって目元もよく分からない。つまり顔全部あんまり分かんないんだけど電光に輝くのは銀髪。あ、サクモさんと同じ?ってことはもしかして親子?

「レントゲンを見ると半分出てる右下の親不知が前の奥歯を押してるようですね、削っても良いけれど、スペースがなくて少し斜め前に生え上がって来てるから今後のために抜いても良いとは思います。すこし口内を見ますんで口を開けてください」
安心と信頼の笑顔のサクモ先生と同じ銀髪に見惚れていたら口が半開きになってたらしい。前髪に隠れた左目が見えなくて先生の右目を見ると笑われてるようだった。
「はい、アーンして、痛かったら教えてくださいね」
「……」

大人なのに『アーン』とか言う先生とそれにドキドキする自分が恥ずかしくて、おずおずと口を開けたら白いゴム手袋の先生の指が近づいてきて、慣れない俺は無意識に口を閉じかけた。
「怖くないですから、もう一回開いてもらえますか?」
「……」
益々恥ずかしくなって、『ええぃ、ままよ!』と目を閉じてから大きく口を開くと先生の指が口の中に入ってきた。親不知のある右下から歯列をなぞるように左下へ。そして上の歯列へ。1本ずつじっくり確認するように動くから、身動きが取れなくて手の指や足先がムズムズするし唾液がたまって気持ち悪い。

「っふ」
…?…いまこの先生『ふっ』とか笑わなかったか?

何か俺のどこか変なのか?歯医者なんてもう何年も来たことないからどうなってるのか見当もつかないんだけど。ヤバいと焦ってると今度は舌の脇とか押してくるし、息しづらいっつーの!ってか息できなくてマジ口ん中ヨダレだらけだし、そろそろ体がモゾモゾしすぎて動きたくて限界なんです。そういえば最初に『痛かったら教えてくれ』的なことを言ってたから、途中で止めてくれんのかな?目を閉じたまま右手を彷徨わせてたら何かにぶつかった。
「っく、スイマセン。口を一度ゆすぎましょうね」
「……」
ようやく口から先生の指が出てって安心してから目を開くと視界が滲んでた。歯医者で半泣きとか、大の男としてどうなんだよ。泣きたくなってくるわ。あ、泣いてんだっけ……。

「椅子を上げますんで、そこで口をゆすいでもらえますか?」
唾液の溜まった口を閉じてコクコクと頷いていると、先生は椅子の背もたれを上げて座らせてくれた。よく冷えた水で口の中をゆすいでいると、隣の先生が色んな器具の準備をしているのが目に入って怖い。
「もう一回寝てくださいね、椅子を倒すんで」
「はい」
低いヴィィンという音を聞きながら椅子の角度と高さを調節されると、先生の顔がだいぶ近づいてきた。

「親不知なんですけどね、どうします?俺としては生え方が中途半端で少し角度が気になるんで、このまま放っておくともっと前の歯を圧迫すると思うんですよね、早いうちに抜いてしまった方が良いかと思うんですが」
「…はぁ」
この痛みからもしかしたら抜歯なのかもと思って家を出て来たけれど、まさか当日に抜くなんて心の準備が出来てないよ。
「また次回でもいいんですけどね、今日時間があるなら今日しませんか?土曜日の割には他の患者さんもいなくて、丁寧に処置できるし、次回まで痛みを引きずらなくて済むかと思いますよ」
今まさに悩んでいたことを…!勧めてくるニコニコ顔には決して悪意はなさそうなのに、暗に『今日すれば?』と言われてるように感じるのは俺がビビってるから?怖いんだけど。
「処置が痛かったら途中で止めますから、歯痛から脱出しまショ?そのためにいらっしゃったんでショ」
笑顔なのに有無を言わせない物言いに、目をつむって遂に頷いてしまった俺を「偉い偉い」と子供のようになだめて、先生は俺の椅子の背もたれを更に倒してから、誰かに指示を出していた。

「テンゾ、うみのさん今日抜歯することにしたから麻酔の後の処置ン時フォロー役ヨロー」
「え?今日の今日ですか?」
驚くんだ、やっぱり今日当日じゃない方が…と往生際悪く起きかけたら「動いたら危ないですよ~」とのんきな声で先生が俺の肩を押さえて来た。に、逃げられない。。。
「じゃ歯茎に麻酔しますよ」
「……」
あー、なんか口ん中ってか肉にズズッて入って来てる。歯を挟んで両側に2か所。案外リアルに感じてキモいなぁ。
「大丈夫ですよ。はい、肩の力抜いて~もう麻酔終わったからリラックスしてね」
「ふぁあ」

口ん中がグニグニっていうかボヤボヤ?ブヨブヨ?する。歯科の麻酔が効くのが速攻覿面だと初めて思い知った俺は上手く閉まらない口を開けたまま、何とも気の抜けた返事が出た。

「…っ、っじ、じゃぁこれから抜歯に入りますから、痛かったら言ってくださいね。うみのさん、リラックスですよー」
「……」
右側は視界いっぱいにサクモ先生の息子先生のマスク姿。上に目を向けると天井の真っ白な蛍光灯と、診察台に備え付けられたデカい電気スタンドのような可動式のライト。左側にはさっき受付にいたネコっぽい目をした人が変なチューブみたいなもんを持って配置についていた。
おっしゃっやるぞ!俺がんば!いつもならプロレスの人みたいに「気合だー」って頬を叩いて闘魂するところだけど、歯医者だから無理。脳内妄想で「気合だー!!」と連発するしかない。

「はい、行きますよー」

キュィィィィン。先生が口の右に指を突っ込んできて頬を固定したと思ったら、ナルト命名の武器を挿入してきた。ヤバい!ハイ無理!超無理!もう無理なんだけど。気合い超無理。痛くはないけど恐怖のあまり右手を彷徨わせて、ギブアピールをしてみた。
「はい、もー少しがんばってネー」
キュィィン。うぉぉぉ…何もう少しって!止めないじゃん!嘘つきか!この先生もう無理ってかサクモ先生は?!今からチェンジできない?サクモ先生!助けてサクモ先生!混乱していると、息子先生の武器が俺の口の中から出て行った。神様ありがとう!

ジュゴォゴゴゴォォゴゴッ。暢気に神に感謝してたら左側からネコ目の人がチューブを俺の口に突っ込んできた。何この人、この状態の俺にチューブツッコんで来るとか!ナルトお前正しいわ!鬼畜だわキチク!なんて一瞬思ったら口の中に溜まってた唾液やら水がどこかに消えていた。どうやらあのチューブは唾液処理らしい。あ、そういうことなんだ。

「はい、もう一回行くからネ。うみのさん、リラックスリラックス」
リラックスと言いながら耳元でギュイィィィンって音を聞くとか、どう考えても無理じゃない?ってちょっと待て、さっきはキュィィィィンだったけど、今はギュイィィィンになってる!音!音低くなってんだけど!武器パワーアップしてる!!

「はい、もう少しですよー」
ギュイィィィン。ジュゴォゴゴォォォ。

「もうちょっとお口開けててネー、リラックスしてー」
カチッカチッ。ギュイィィィン。グィ、ジュゴォゴゴォォォ、グッググッ、カチッカチッ、グッ。

ギュイィィン…。ジュゴゴゴォォ…。カタン…。ヴィィィィン。
「はい、うみのさんお疲れ様でしたー。綺麗に抜けましたよ」
「ふぁえ?」
完全に泣いた。時間で言ったら20分程度のことで痛さで言ったらあんまりというか全然痛くはなかったと思うんだけど。とにかくあの音が恐怖でしかなくて、目を開くと視界が滲んでた。

「頑張りましたね、コレあなたの歯ですよ」
「……」
診察台の横にある先生が使ってた色んな武器という名の器具の横に俺の歯は小さく転がっていた。さようなら、俺の親不知。
「もう怖いパートはおしまいですからね」
そう言った息子先生の顔を見上げると滲んだ視界の中、先生の右目が細められるのが見えてやっと安心して、ホっと肺に詰まってた息を吐いた。

「ゴメンね、うみのさん。下あごの歯なんで縫わないといけないんですよ、もうちょっとの辛抱だから」
おいクソ、だましたな…終わりとか言ってこれから縫うんかいっ。縫うのとかも健康体で24年過ごしてきた俺には初体験なんだけど、あぁまた心臓バクバクしてきた。

「本当にコレが最後だから。ね?もうちょっと頑張って」
「ふぁあ」
そういって口の中にまた息子先生のゴム手袋の指がツッコまれた。…あー縫ってるとかさ、もー何でもいいや。あの機械音がないだけでこんなに平穏だなんて。歯茎は縫われてる感覚が地味にあるけど、全然気になんない。もう戦いは終わったんだなぁ。歯茎を縫うという作業で今まさに歯痛との激しい戦いに幕を下ろしている。
「はい、うみのさん。全部終わりましたよ、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「…あいがとぉごじゃあます」
「ゆっくり起き上がって口ゆすいでくださいね?あ、この歯どうします?要りますか?」
「…いりゃまへん」

「あっ、イルカ君お疲れ様ー、無事に終わって良かったねぇ」
「…あいがとぉごじゃあます」
「イルカ君て何?父さんうみのさんと仲良いの?なんで?ねぇどうして?」
そんなことどーでもいいんだよっ何で今更サクモ先生?何で?もっと早く来いよ、バカー!!だなんて心の中で普段ならあり得ない暴言を吐きながら、体は無意識のまま口をゆすぐのに集中してた。息子先生が俺に「イ、イルカさん大丈夫?」なんて言いながら歩くのを支えてくれようとするのを見て、サクモ先生は「仲良しだねぇ」とか暢気なこと言ってるし、何だかなぁ。

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「お会計は3240円です」
「はい、っと、すいません1万円でお願いします」
「大丈夫ですよ、では先に大きい方の5千、6千円のお返しと、残り760円ですね。それと、こちらが止血のお薬と痛み止めになります、ではお大事に」
「あ、ありがとうございます」

「イルカさんっ」
おつりを財布に入れて貰った薬とカバンにしまっていたら先生に呼び止められた。
「消毒と殺菌、事後経過のために明日また来てくれますか?」
「明日?あー、はい同じ時間で良いんですかね?」
「先輩ちょ「ちょっとお前マジ黙んなさいよっ」
「それとね、大丈夫だと思うけどもし今日このあと痛くなったらいつでも電話してくださいね。あ、これ俺の連絡先だから」
「は、はぁ」
抜歯ってそんな大事なんだなぁなんて思って顔を上げたら、マスクを取った息子先生の顔が目の前に。えっこの人凄く格好良ぇーな!こんなモデル並みに美形な先生の指さっきまで口に突っ込まれてたんか。ひえぇぇー。ってか近くね?
「あ、あの今日はお世話様でした」
「こちらこそイルカさんとお知り合いになれてよかったです」
「えっ?」
「ほら、うち小学校の検診してるんでしょ?これからは父さんの代わりに俺も行くことあると思うから」
『お知り合いとか何言ってんだこの人』とか一瞬思ったけど、純粋にいい人みたいで良かった。流石はジェントル炸裂サクモ先生の息子さんだぜ。
「あ、はたけカカシ先生って言うんですね」
「そうです、カカシって呼んでください」
「はぁ、じゃまた明日の10時に来ますんで、カカシ先生よろしくお願いします」

親不知。
今まで学校の検診でお世話になってたとはいえ、未知の世界だった歯医者さんに行っての抜歯を凄い経験だったと思うのは大げさ?大人の階段を一歩登った気がして、なんとなく誇らしいような変にフワフワした気分で家路についた。フワフワ気分は麻酔のせいだったと麻酔が切れかかって、頓服飲んでから気が付いた1日。

明日もまた歯医者かぁ。