Papersong Bubbles

NARUT0のカカイル創作ブログ。

バレエカカシ1(SS)

バレエカカシ1
シリアスで書いたというのに、こんな雑なタイトルで可哀想に。。。
ちゃんとタイトルも考えますが、とりあえず今回はイルカさんも全く出てこない
序章なので、これでご勘弁を。
ちょっと、今までになく暗いです。くーらーいーーーよーーー。
パラレルだし暗いし、(今のところ)救いようないんですが、最後はイルカさんとの
ハピエンに持っていくのでお暇な方はどうぞ以下からお付き合いくださいませ(*´ω`*)
頂いた拍手のお返事は、家に帰って来てから改めて。

 

 

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Prologue

もう3月だというのに、この寒さは何だろう。
セントラルヒーティングの入った、この建物全体が温かいはずだというのに、寒さで爪先から背筋まで凍り付いて動けずにいるこの感覚は何だ。
今までロシアやウィーンにボストン、より寒くて凍え死ぬような痛みも経験してきたというのに。この国の冬とて、もう7年目を迎える。
段々と日が長くなり始める3月は本来寒さと別れを告げる時期だ。それだというのに、目の前に広がるどんよりとした暗さ、冷たさは何なのか。
「父さん」
小さく呟いたカカシは扉に手をかけた。


2月も中頃、その日は珍しく小春日和でこれから挑むオーディションも問題なく簡単に終わるんだろう。カカシは普段通り劇場の扉を大きく開いた。
「ジゼル」のアルブレヒト、以前にもやったことのある役柄で特に今更焦る必要も無いだろう。祖国を離れたこのバレエ団に入団してもう7年になる。ソリストからファーストソリスト、演目の主役を演じるプリンシパルに任命されてここまでやってきた。自分より年長のダンサーは他にもいるものの、このロイヤル・バレエの頂点に立っている、自惚れでも誇張でもなく、そう思わせるに十分な実力が彼にはあるのだから。


「この世界で一番上手になってごらん、その時あの国に連れて行ってあげよう」
父1人、子1人。
寄り添いあって暮らしていた幼い頃、父から教わっていたのがバレエだった。その頃はあの父が昔はダンサーとして第一線で活躍し、今は著名な舞台監督だなんて知る余地も無く、彼の仕事の合間に一緒に過ごせるわずかな時間、2人だけのレッスンの時間をカカシはとても楽しみにしていた。
いつのことだったか、今はもう覚えていない。

忙しい父はそれでも子供であるカカシを一人にすることなく、海外であれ、仕事先に連れて行ってくれた。1人ホテルで暇をつぶしている時にTVで見たアニメは今までに見たことも無いような物で父が帰ってくるまでのあいだ夢中で見ていた。
「カカシ、それは楽しいかい」
「あ、父さんお帰りなさい。僕これ初めて見たよ」
「それは日本のアニメだね、いや、懐かしいものだな」
「父さんこれ知ってるの?日本ってところ行ったことある?」
「遠い昔にね。行ったことがあるんだ」
「今度お仕事で行くことってあるかな?そうしたら僕も連れてってくれる?」
「そうだね、今はあの国に行けないけれど、カカシがバレエを一番上手に踊れる日が来たら、そうしたら連れて行こう」
一瞬悲しさの混ざったような複雑な顔を見せた父が、すぐにいつも通り穏やかに言ってくれた言葉は何故だかカカシの心の奥深くにずっと残っている。

父からそのまま受け継いだのは光が溶けるような銀髪だけではなく、細っそりと長い手足、そして身体能力。ほんの幼い頃は父だけが褒めてくれたカカシのバレエはいつしか多くの人の目に留まるようになった。
「カカシ、昔と比べて今は世界のどこでも自由に勉強できるようになった。世界を見てたくさん勉強してきなさい。父さん以外の世界も知ればカカシは今より、きっと誰よりも上手になるよ」
そう言われて外国人の比較的多い、この国のロイヤルバレエ団へやってきた。

ロシアを離れてからは、所属するバレエ団の公演で世界を旅することも多かったが、幼い頃に約束した日本だけには足を向ける気にならなかった。
1人では行けない。自分の実力を父さんに認めてもらって2人で一緒に行くんだ。
それは小さな目標ではあったけれど、多くの団員と熾烈な競争に揉まれながら舞台に上がり続ける、煌びやかな表の世界には見えない過酷な生活の中でカカシの心に眠った唯一の支えだったのかもしれない。

 

さぁ、今年のプログラムをこなしたら久しぶりに少し長い休みを取って一度父さんに会いに行こう。カカシと離れてから父もロシアを後にし今はパリで仕事をしている。
このところお互い忙しい身でゆっくり出来ずにいたから、父さんをパリに訪ねた後はそのままフランスの田舎でのんびり過ごすのも良いかもしれない。
練習と舞台、その2つしかない単調な毎日で気が狂いそうになってきたこの頃、そんな細やかな楽しみを胸に、今季のジゼルのプログラムに目を通してからどの位たっただろうか。
カバンの中に忘れていた携帯が鳴り始めた。
あと1時間もすれば、オーディション本番が始まる。
電話の相手には悪いが、どうせくだらない電話に出て折角のモチベーションを崩す
ようなことは今はしたくない。
無視を決め込もうとしたものの、どうにも電話は鳴りやんでくれない。
「はぁ」
小さな溜息をついてから携帯の通話ボタンを押した。
「…Hello?」

 

 

「カカシ、君の番になっているのだが、どうかしたのかね?顔色も優れないようだが」
「……」
「まぁ本当、少し控室で横になってきては如何かしら?他の子に先に踊ってもらうから、気分が良くなったら出直して来て頂戴な、あなたは特に楽しみにしているのよ」
「……いえ」
「ほら君、次はジェレミーだろう?カカシは後に回すから次を呼んで来てくれないか」
「はい只今」
「……いえ、もういいんです」
「なんだね?どうも最近齢のせいか耳が遠くて悪いね」
「もう、いいんです。俺は、下ります」
「一体どうしたんだ?!カカシ?!」

「もう、俺がバレエを踊る理由なんて無いんだ」


そう、父さん。
あなたが死んでしまった今、俺にバレエを踊る理由なんて残ってないんだ。